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平成30年5月18日–19日に福島県いわき市にて開催された、第8回太平洋・島サミット(PALM8)において、本学理学部の中村崇准教授が日本側代表者としてパラオ共和国にて実施された、地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)のひとつである「サンゴ礁島嶼系における気候変動による危機とその対策」プロジェクト(https://www.jst.go.jp/global/kadai/h2403_palau.html)の成果が首脳宣言に盛り込まれました。

このプロジェクトは、平成25年度(2013年4月)~平成30年度(2018年3月)に、国際協力機構(JICA)と日本科学技術振興機構(JST)の支援の下で実施され、琉球大学、パラオ国際サンゴ礁センター、パラオ短期大学が日本とパラオのそれぞれのカウンターパートとして連携しつつ、パラオ共和国にて、自然科学的・社会科学的な分析・評価を通じた、気候変動影響下におけるサンゴ礁生態系の持続的な維持管理に資する新たな知見・課題の抽出、パラオの自然保護官・短大生・高校生へのトレーニングなどの人材育成、パラオの自然を紹介するガイドブックの発行と、教材としての現地高校・短大への無償提供、科学的成果に基づいた上下院議員団への政策提言や各州政府および政府機関への提言書の提出などを行いました。

 

プロジェクトFaceBookページ: https://ja-jp.facebook.com/pcorie/

 

首脳宣言における科学技術分野に関する記載(抜粋)
(中略)首脳はまた,地球規模課題対応国際科学技術協力プログラムを通じたパラオにおける珊瑚礁及び沿岸生態系の持続可能な管理に関する提言及び能力構築の成果並びにこうした取組がその他の太平洋諸島フォーラム島嶼国によって採用される潜在性を認識した。

 

 

パラオのサンゴ礁生物相の潜水調査

 

現地若手研究員らを対象としたフィールドでの環境観測実習

 

住民を対象にした説明会

 

プロジェクトで発行したパラオの自然ガイドブック発行式典の案内

 

パラオ短期大学構内に整備された、国内初の遺伝子実験施設

 

パラオでの保全政策を立案する際に、科学的知見を基にして進めることを謳った
「Science and Policy Dialogue call for action」への上下員議員議長らによる署名式

    

<背景及び成果など>
パラオ国では、ミクロネシア地域各国との共同宣言である「ミクロネシア・チャレンジ(MC)」を宣言し、2020 年までに沿岸海域の30%と陸地の20%を保全区域とすることを目標に活動を行っており、国内ではPAN (Protected Areas Network)法を施行することで、サンゴ礁島嶼生態系の保全をおこなっています。PAN保護区域の多くは、漁業者が行く世代にわたって伝えてきた伝統的知識や、漁業対象生物についての経験的知見を基礎とした区域設定がされており、さらに州ごとの保護対象や手法(期間やサイズ制限など)もまちまちでした。パラオではMCに対しての保護区設定を進めたいが、その根拠となる科学的データが圧倒的に不足していたため、本プロジェクトでは、パラオ側ニーズとしてのサンゴ礁島嶼生態系の保全に資する科学的根拠を提供すべく、サンゴ礁環境およびサンゴ礁生物群集の現状把握や環境影響推定を行うことで、特にMPA(Marine Protected Area)についての科学的分析と将来に向けた効率的維持管理に資する知見抽出を進めました。例えば、海側の視点から考えると、生物調査を基にした各海域での主要生物群の現状、環境動態・傾向の明確化や海流や潮汐による生物幼生の分散がもたらす地点間の遺伝的連結性を明らかにすることによって、より論理的かつ実効性の高いMPA配置や重点保護区化などについての提案が可能になると考えられます。

プロジェクトでは、科学的基礎データ取得に必要不可欠ともいえるサンゴ礁域での定点モニタリングや調査手法の確立、基礎データを基にした保全策提案が重要であるという認識の下、プロジェクト期間中の継続計測・観測結果のパラオ国への提供とともに、プロジェクト修了後の各種モニタリング手法の引継ぎが進められました。また、これらの調査は、プロジェクト終了後にカウンターパートであるPICRC(パラオ国際サンゴ礁センター)の研究員が実施する事で、永久方形区でのサンゴ礁生物調査と、各地点での水温や水質測定などが将来にわたってパラオ国で実施される予定です。

また、生物多様性解析の主要な柱である生物標本管理のための標本データベースが作られ、複数の未記載種や新種が見つかっています。それらの標本の多くは、琉球大学にて保管されています。さらに、カウンターパートであるPCC(パラオ短期大学)にて、本プロジェクトによる供与機材を中心に構築された遺伝子実験施設における遺伝子抽出・解析が確立され、同時に、プロジェクトで派遣した専門家らによるパラオ国内の若手育成と併せて実施されました。

これらの研究成果の一つとして、Ngermid湾(ニッコー湾)と呼ばれるパラオ最大の人口密集地に隣接した半閉鎖的海域において、高水温・低pH化が進むであろう将来の海洋環境が既に成立していること、その環境中にもかかわらず多様なサンゴ礁生物群が見つかること、さらに、湾外やパラオ周辺の多地点と比べて、湾内に生息する同種生物の遺伝的な特異性が判明したことや、湾内個体群での高水温耐性、低pH耐性などが示唆されたことから、同湾の生態系保全の重要性をパラオ政府および関連するコロール州へ提言するに至っています。

一方、経済活動を観光資源や水産資源に依存するパラオ国において、持続可能な社会を維持していく上では、気候変動対策だけではなく、さまざまな地域環境変化と社会的な意識変化を把握しつつ、地域レベルでの環境変動や生物学的データに基づいたサンゴ礁保全対策を立案し、実践する必要があります。そのため、本プロジェクトでは、自然科学の分野のみではとらえにくい、陸での人間活動と生態系との潜在的なつながりを社会科学的な側面からも明確化しつつ、経済・社会影響としてとらえることを視野に入れた、全国的な社会科学調査が実施されました。本プロジェクトの実施期間中(2013~2018)には、パラオ国における海外からの観光客数が約50%近く増加した時期と重なり、その影響は、パラオの経済や社会に大きな影響を及ぼしていたと考えられています。実際に、本プロジェクトでは、その初期に全国規模のアンケート調査を行い、得られた回答を解析することにより、パラオ各州での観光開発への意識の違いや、社会的なサンゴ礁島嶼生態系保全のとらえられ方、利用についての考え方、近年の観光需要急増とその負の影響への認識なども浮き彫りとなりました。また、急激な観光需要の変化にともない現地マリンレジャー産業にも、海外からの展開をはかる業者の影響からか、海域利用のモラル低下・環境意識の低下(ごみ投棄や餌付け、ダイバーによる生物の持ち帰りなど)がみられるようになっていたことから、本プロジェクトではパラオ初となる「Green Fin(事業者主体でのマリンツーリズム環境負荷評価スキーム)」の導入支援のためのワークショップ開催や、社会科学系の成果を基にした現地マリンレジャー業者らへのフィードバックを兼ねたセミナーの実施、PAN事務局との連携による州保護官(レンジャー)の現地トレーニング支援を進めました。

本プロジェクトでは、科学的な知見、持続的かつ自律的なパラオ国でのサンゴ礁保全政策のアイデアを現地で実際に活動を行っているレンジャーや地元の重要なステークホルダーでもあるNPO/NGOと共有しながら、研究成果を基にした産業・行政への政策提案をパラオ政府の上下院議員団らに説明するなどの活動をおこないました。その結果、パラオでの保全政策を立案する際に、科学的知見を基にして進めることを謳った「Science and Policy Dialogue call for action」への上下員議員議長による署名がおこなわれました。このほか、プロジェクトの様々な研究や人材育成などの成果を共有するべく、セミナーを毎年開催し、最終年度には科学的知見に基づいた政策提言を示すセミナーを計3回(9月・12月・2月)開催し、そのうち2017年12月と2018年2月のセミナーでは、カウンターパートの協力を得て、科学的成果と政策案をそれぞれパラオ語に翻訳しながら、国内向けラジオ放送およびYouTubeでのセミナー映像公開(https://youtu.be/5TziviJUuyI)をおこないました。また、個別に流域管理を進めたいと考えているAirai州や、ニッコー(Ngermid)湾の保全方法を検討しているNgermid自治体(Koror州)、海面上昇および台風による高潮被害対策を検討しているMelekok州などで、州政に関わる知事・行政官や地域住民を対象としたコミュニティーミーティングを実施しました。

最終的には、科学的成果の詳細を、一般には伝わりにくい学術論文としてだけでなく、パラオ国内のステークホルダーとなる政府機関および各州に分かり易く説明するため、PICRCが正式な行政報告書の一つとして発行している「Technical Report」形態をとることで、より受け入れられやすくするための工夫をおこないました。さらに、政策提言の各項目に関連する政府機関や州に対して、カウンターパートであるPICRCから政策提言の要約とTechinical Reportを合わせたパッケージが3月末に提出されました。